| −建築評論家 松葉一清・朝日新聞学芸部より− |
| 東大和市に開設された「向台老人ホ−ム」を見て、驚きの声をあげぬ人はまずいないだろう |
| ガウディを思わせる彫刻を全身にまとった建築は、それまでの「擬似病院」的な老人ホ−ム |
| とはかけ離れているからだ。恐らく入所する老人にとっては「最後の家・終いの棲家」となる |
| であろう建物が、それこそ極楽めかした装飾三昧に仕立て上げられているのだ。 |
| このホ−ムのメインスペ−スは、何と言っても霊安室だ。老人ホ−ムで最も配置が難しいの |
| は霊安室であるとよく言われる。霊安室を老人の居室棟に配置すると、その隣室を割り当て |
| られた老人たちに動揺を与えるからだ。このため霊安室は、どんどん隅っこに追いやられて |
| 時にはゴミ出しの勝手口や地下の駐車場に計画されたりする。梵は「老人は粗大ゴミではな |
| い」と嘆く。そこで彼は、思い切って霊安室を正面玄関脇に据えたのである。その仕立てもカ |
| タコンベを思わせるような塗壁とフレスコ画の礼拝堂のイメ−ジにした。そこに彫刻家による |
| 巨大な手の彫刻を採用した。手は左右二本あり仏像と同じく左手は前方に手のひらを前に |
| 向けて壁から突き出され、右手は水平にして床に置かれている。この右手は息を引き取った |
| 老人が、このホ−ムで最後の夜を過ごす為のベットなのである。そして、大いなる者の右手 |
| に抱かれて、左手によって天界に導かれる構図が完成する。この霊安室の「配慮」は、老人 |
| たちにも好評だ。ここで最後が過ごせるならと、わざわざ遠方から、入所の希望を伝えにくる |
| 老婦人まで現れたそうだ。それは梵と仲間の工人集団の創作が、単に奇をてらったもので |
| はなく、一般の人たちに広く受け入れられる素地を持っていることの、何よりの証明といって |
| よいだろう。 |